リバーサンプリング

前回で解説したように、リバーサンプリングとは、標本回収率の低下やパネル内に存在する非常に回答慣れした登録者といった問題点を回避するために考案された標本抽出方法です。不特定多数の人が閲覧するポータルサイトなどに調査回答を依頼するバナーやポップアップを置くもので、日ごろから定量調査に回答していないフレッシュサンプルを取得できるところに大きな意味があります。

GMOリサーチがリバーサンプリングを用いて海外でデータサンプリングを行ったテスト調査の実例を通じて、この手法の効果や可能性について考察していきたいと思います。


■事例1:Facebook広告を通じたリバーサンプリング
GMOリサーチでは、2015年2月にFacebook広告を用いてリバーサンプリングのテスト調査をタイ国内のタイ人を対象に行いました。具体的にはFacebookのプロフィールでタイ在住のユーザーをターゲットセグメントとして、調査への回答を依頼する広告(図1)を配信。その中には以下のようなコンテンツを用意し、自動車オーナーに対してアンケート回答を呼びかけました。

結果として、この広告は793,809回表示され、そのうち6,255回クリックされ(クリック率7.9%)、300回以上の「いいね」が押されました。この数字は自動車所有についてターゲティングせず、タイ在住者に対して配信した結果なので、自動車所有者に絞ったクリック率はかなり高いと考えられます。おそらく東南アジア諸国のオンラインアクセスパネルの回答率と比較しても、高い確率だと言えるでしょう。

また、この広告にかかったコストは日本円で\73,363、CPCは\11.73でした。この数字もオンラインアクセスパネルの謝礼額を考慮すると安価であり、リバーサンプリングのポテンシャルの高さを示すものだと言えます。


■事例2:東南アジアの媒体であるOn deviceを通じたリバーサンプリング
GMOリサーチでは、2015年4月に東南アジア・インドシナ半島のベトナム、ラオス、カンボジアの3ヶ国を対象としてリバーサンプリングを実施し、健康意識に関する調査(※1)を行いました。データコレクションはOn device社(※2)の協力のもとで行っています。

On device社は自社のオンラインアクセスパネルを保有する調査会社でありながら、同時にウェブサイトやゲーム、ニュースといったポータルサイトに調査参加の依頼広告を掲示するデータコレクションにも注力していて、その中にはモバイルに特化したサイトも多く含まれています。特に今回GMOリサーチが調査を行った東南アジアの開発途上国では、インフラ整備途上であるためインターネット網が発達していないので、一般の人々は低速度のフィーチャーフォンでモバイルアクセスしている割合が高いのが特徴です。そのため、フィーチャーフォンでもある程度のスピードで画面表示、回答が可能な仕組みを提供することで、開発途上国においてもデータコレクションが可能となりました。

今回のGMOリサーチの調査ではOn device社の協力を得たうえで、ベトナム、ラオス、カンボジアの3ヶ国において、ベトナムは3日間、ラオス・カンボジアは8日間で、調査対象に適した16歳以上の男女各国200サンプル、計600サンプルを回収することに成功できたのは、東南アジアにおけるリバーサンプリングの可能性を示すものだと思われます。
(※1)調査結果の詳細 http://www.gmo-research.jp/4217.html
(※2)On device社のサイト https://ondeviceresearch.com/




オンラインアクセスパネルを用いた消費者への新しいアプローチ

マーケティング・リサーチにおいて、標本の代表性を担保していたランダムサンプリングが困難になる中、オンラインアクセスパネルを用いた非確率的なデータサンプリング手法が一般的になっています。その理由として、従来のランダムサンプリングを前提とした調査手法と比較すると、コストや実査日数が数分の1に大幅に短縮できるというメリットを無視できないことがあります。そこで、非確率的手法であることを前提に、結果から何をどこまで説明できるデータなのかということに留意しながらコストや納期短縮のメリットを受け入れる方向が、現在のマーケティング・リサーチでは主流となっています。

しかし、近年は、オンラインアクセスパネルで登録者が多数の属性情報を登録していることや登録者数が減少しつつあることを背景に、その存在意義は変化しています。そこで、オンラインアクセスパネルでは従来のアンケート調査だけではなく、以下のようなさまざまな新しい取り組みが行われるようになっています。



■リサーチとコミュニケーションの両立
オンラインアクセスパネルの一つの特徴は、定期的に登録者の属性情報を取得、保持していることで、マーケティング・リサーチにおいて、低コストで迅速、そして詳細なターゲティングが可能な点だと言えます。

これを利用して、オンラインアクセスパネルの登録者に対してリサーチを実施すると同時に、商品の試用・評価とプロモーションを両立させたコミュニケーション型のリサーチが、近年行われるようになっています。

こうした実際の商品を試用して行うテスト調査としては、以前からリサーチに特化した枠組みで行われてきたHUT(Home Use Test/ホームユーステスト)という商品評価調査があります。HUTはオンラインアクセスパネルからリクルートした調査対象者に対してテスト商品を送付して実際に使用してもらい、使用前後の事前・事後調査を通じて商品コンセプトの確認を行ったり、想定したコンテキストで使用されているかに関するリサーチを実施したりすることが通常です。

これに対してコミュニケーション型リサーチは、商品・サービスがターゲットしている性・年代・興味のある商品ジャンル・特定カテゴリ商品の利用頻度などの属性から細かくターゲティングして、登録者と商品・サービスのマッチングを行うことができます。


コミュニケーション型リサーチを通じて、パネル登録者は興味を抱いた商品・サービスを無料または安価に試用できます。さらに試用後に事後調査を行って感想などを企業側にフィードバックし、商品に満足した場合は再購買につながる可能性もあります(図2)。

つまり、安価に商品・サービスを試用したいパネル登録者、リサーチを兼ねたプロモーションを広く行いたい企業、パネルのマネタイズを希望するパネル運用企業の三者の利害が一致しているのがコミュニケーション型リサーチだと言え、一般的なオンラインアクセスパネルにおいて広く実施されるようになりつつあります。

ただし、登録者から調査を目的とした許諾を得て成立しているオンラインアクセスパネルでダイレクトマーケティングを行うことは、業界団体の綱領等で禁じられています(※3)。そもそもマーケティング・リサーチは調査対象者の善意に基づいて実施されるもので、その中でダイレクトマーケティングを行うことは、マーケティング・リサーチに対する信頼を失わせ、協力体制が得られなくなる可能性が高いからです。そのため、プロモーション型のリサーチに関しても、リサーチ終了後に個人情報を保持してダイレクトマーケティングを行うことは認めていません。  また、オンラインアクセスパネルで行われるコミュニケーション型リサーチは、実施する商品カテゴリや実施頻度によって、当該パネルで別途実施されているマーケティング・リサーチの結果を偏らせる可能性もあります。あるパネル登録者が、たとえば化粧品に関するプロモーションリサーチに複数回参加すると、当然ながら特定の化粧品に対する認知度や使用頻度が上がるといった影響が生じるからです。

以上のことから、各パネル登録者に対して、コミュニケーション型リサーチの参加頻度を抑制したり、参加を依頼する際に商品・サービスカテゴリを意図的にコントロールすることが大変重要だと言えます。

(※3)「アクセスパネルの調査以外での使用目的の禁止  アクセスパネル会員に対して、調査以外の働きかけをしてはならない」日本マーケティング・リサーチ協会『インターネット調査に関する品質保証ガイドライン』2006年



■デジタルマーケティング施策の効果測定への応用
GMOリサーチでは、デジタルマーケティング 施策の効果を測定・分析できるCPAT(CLOUD PANEL for Audience Tracking)を2015年5月 にリリースしました。


これは、以下のような仕組みになっています。

①オンラインアクセスパネル登録者から許諾を得て、cookie情報を取得する。

②提携しているDMP(データマネジメントプラットフォーム)のアドネットワーク内に存在するサイトを、cookie情報を提供しているパネル登録者が訪問すると、DMP側に足跡が残る。

サイト内に表示されている広告に接触したか否かの広告効果測定分析をDMP側で行う際に、オンラインアクセスパネルが保持している属性データ(性別・年代・職業等)と紐付けた分析を行うことが可能となる。

こうしたことは、従来DMP単体では推計に頼っていた部分なので、広告効果測定のセグメント精度を高めるうえで大きなメリットになるはずです。

CPATも、前述のコミュニケーション型のリサーチと同様、マーケティング・リサーチにおいてターゲティングに利用していた細かい属性を、別用途に生かしたものだと言えます。



■リサーチシステムを生かしたゲーム、クイズ
GMOリサーチの保有しているオンラインアクセスパネルinfoQでは、パネル登録者に対して、通常のマーケティング・リサーチを行うアンケートシステムを用いてゲームやクイズを提供しています。画面に掲出される広告バナースペースでこうしたコンテンツは運営され、参加者にはポイントを還元しています。

前回の連載で紹介したように、オンラインアクセスパネル登録者が減少したのは、オンラインでアンケートに回答する行動に対する新鮮さや面白みが薄れたとともに、スマートフォン媒体を中心にSNSやゲームなどの新たなコンテンツが多数登場したことにあります。

そのため、パネル登録者をアクティブに維持するためパネル内にさまざまなコンテンツを配置して、パネル登録者のアクティビティを高める施策が必要となってきているのです。




まとめ

今回の内容を要約すると以下の3点になります。

1.これまでオンラインアクセスパネルは、マーケティング・リサーチのサンプリングのための登録者集団として一般的に利用されてきた。しかし、パネル登録者の協力率の低下、回答慣れなどの問題があり、リバーサンプリングをはじめとする新たなサンプリング手法が提唱されるようになってきた。

2.これに対して、オンラインアクセスパネルは登録者のアクティビティ維持のためにゲーム、クイズといったコンテンツの提供を始めている。また、定量調査のサンプリング対象としてだけではなく、定期的に登録者の属性情報を取得していることを利用して、コミュニケーション型リサーチやデジタルマーケティング施策の効果測定への応用といった新たなサービスを模索するようになりつつある。

3.上記から
・オンラインアクセスパネル ⇒ ターゲティングを目的とした新サービス
・ランダムサンプリング ⇒ リバーサンプリング等の新たなサンプリング手法
といった新しい潮流が形成されつつあることがわかる。

海外ではマーケティング・リサーチ会社とオンラインアクセスパネル運営会社が明確に分離しているのに対して、日本ではマーケティング・リサーチ会社がオンラインアクセスパネルを所有する形態がこれまで続いています。しかし、現在オンラインアクセスパネルに求められるニーズが大きく変わり、同時にパネル運営も従来と異なるスキルが求められています。そうした中、今後はマーケティング・リサーチ会社とオンラインアクセスパネル運営会社が分離していくことが予想され、現在はその過渡期にあると思われます。




次回からは、消費者の無意識な情動変化を分析する、生体反応測定調査について解説する新シリーズがスタートします。