タッチポイントの概念

タッチポイントとは、企業・ブランドと顧客(見込客も含め)のあらゆる接点を指し、一般的には「顧客接点」と言われます。主に広告や売場でのプロモーション活動を対象としていて、コールセンターへの問い合わせやSNSを通じたネットチャネルも重要なタッチポイントだと言えます。タッチポイントは、AIDMAで知られる消費者の認知~購買行動と合わせて理解されることが一般的です。

タッチポイント概念




タッチポイント概念の登場

タッチポイント自体は大量生産、大量消費を前提としたマス・マーケティング時代から存在しています。ただ、その重要性が認識されるようになったのは、1993年にノースウェスタン大学のドン・シュルツ(D E. Schultz)らがIMC(統合型マーケティング・コミュニケーション)(※1)の概念を提唱してからだと言えます。

■ IMC(統合型マーケティング・コミュニケーション)とは?
IMCは、顧客データベースをターゲット別にセグメントし、最適な手段、時期、場所で、一貫したコンタクト・マネジメントを行うことを意味します。

その概念が提唱された背景には、企業内での担当部門や依頼する代理店が異なっていたため、TVCM・新聞広告などのいわゆるマス広告(ATL:above the line)とそれ以外のプロモーション活動(BTL:below the line)が分断(※2)され、バラバラなメッセージを発信していた広告業界の事情があります。

そのため、一貫したメッセージを発信することの必要性が指摘されたのです。その後、インターネット広告の出現によってIMCの重要性はより一層高まりました。なぜなら、インターネット広告はマスメディアでありプロモーション活動でもあるという微妙な特性を持つため、今ではマス広告とプロモーション活動の境界自体が曖昧になってきたからです。こうした時代だからこそ、ぶれのない一貫したメッセージを発信することの大切さが注目されるようになっています。

IMC登場前後の状況

(※1)IMCはブランド・コミュニケーションが双方向コミュニケーションへと移行していく契機にもなった。詳細はhttps://www.gmo.jp/report/marketing/39/index.phpを参照。

(※2)ATLは将来的に価値を生む「投資活動」とみなされるのに対して、BTLは短期的に価値を生む「営業活動」であるという会計概念があった。すなわちATLはB/Sに計上すべきなのに対して、BTLはP/Lに計上すべき費用であるという考え方である。また、コミッションの支払いの有無、ROI測定の難易、AIDAのどの段階を目的とするか等々についても大きな違いがあった。
参照:http://en.wikipedia.org/wiki/Below_the_line_(advertising)


■4Pから4Cへ
IMCの登場によって、マーケティング・ツールの枠組みも企業側視点から消費者視点へと大きく変貌を遂げました。  それまで利用されていたのは、1960年にエドモンド・マッカーシー(E J.McCarthy)が提起した4Pという概念です。これは、顧客に対して商品を販売する際、企業側の視点から複数存在するマーケティング・ツールを4要素にまとめ上げたもので、今日のマーケティングの教科書にも出ている基本概念になっています。

一方、基本的な考え方は同じですが、IMCを用いて顧客に訴求するフレームワークを消費者視点に切り替えるよう提言したのがロバート・ローターボーン(R F.Lauterborn)です。彼はドン・シュルツらとの共著である"Integrated Marketing Communications"(1993)にて4Cという概念を提唱しました。


表1 4Pと4Cの違い
4P 4C
Product(製品)
製品、サービス、品質、デザイン、ブランド 等
Consumer value(顧客価値)
どのようなメリットを提供できるか、またはCustomer solution(顧客ソリューション)どんな解決法を提案できるか
Price(価格)
価格、割引、支払条件、信用取引 等
Customer cost(顧客コスト)
いくら払うとその価値を手に入れられるのか
Promotion(プロモーション)
広告宣伝、ダイレクトマーケティング 等
Communication(コミュニケーション)
双方向など、顧客とのコミュニケーションを重視
Place(流通)
チャネル、輸送、流通範囲、立地、品揃え、在庫 等
Convenience(流通は利便性)
どんな場所でも入手できることが重要


参照:http://ja.wikipedia.org/wiki/マーケティングミックス

表1のように、4Pは、どのような製品を、いくらで、どこで、どのように売るのかなどあくまで売り手である企業側の視点となっていますが、4Cは消費者側の視点になっているのが特徴です。シュルツらの提唱したIMCでは、プランニングのスタート段階で顧客のターゲッティングやセグメンテーションをきちんと行い、セグメント別にコミュニケーションのためのコンタクト・マネジメントを実施します。

また、IMCを実践するうえではプランニング起点が顧客であるため、使用するツールも4Pではなく、消費者側の視点から読み解き直した4Cを活用するのが有効だと言えます。このように単に4Pと4Cを比較するのではなく、IMCという視点から考えると、4Pと4Cを比較することの意味も理解できるのではないかと思います。




タッチポイントとROI計測

IMCを考えるうえでは、投資額に対してどれだけの利益を生み出すかというパフォーマンス計測指標であるROI(Return on Investment/投資利益率)も重要になります。

■広告におけるROI(※3)とは?
広告のROIは、広告に投下した費用に対してどれくらい利益が出ているかという割合で計測します。

広告ROI

ATL中心の従来の広告においては、上記の広告ROI測定が困難でした。それにはいくつか理由があります。
・そもそも消費者が広告に接触して購入に至る過程を、正確に測定することは困難。

・マス広告はプロモーション活動とは異なって認知度向上やブランドイメージ浸透を主たる目的としているため、短期的な効果測定では効果が低く見積もられてしまう可能性がある。

マス広告のROI測定の困難さについては、19世紀に米国で百貨店経営を成功させ、「マーケティングにおける先駆者」と呼ばれるジョン・ワナメーカー (John Wanamaker)が次のような名言を残しています。「広告費の半分が金の無駄遣いに終わっている事はわかっている。分からないのはどっちの半分が無駄なのかだ」(※5)。

つまりワナメーカーは、投入した広告費全体のうちどの媒体の費用が無駄なのかが分からないと言っているのです。

(※3)広告ROIに関しては連載「マーケティングROI」において、現状の問題点や今後の方向性等、詳細を論じている。https://gmo-research.jp/lab/mi_report/marketing-ROI-1
(※4)一般的には売上から原価、販売管理費、広告費含む販売費等を除いたもの。
(※5)参照:http://ja.wikipedia.org/wiki/ジョン・ワナメイカー


■ROI測定の必要性
このような状況が変化して広告ROI測定の必要性が注目されるようになったのは、複数のメディアを組み合わせたメディアミックス戦略が広まり、限られた広告費を適性配分する必要性が高まってきたことが要因となっています。

IMCの最大の目的は、一貫したコンタクト・マネジメントによって最適なメッセージを最適なメディアで最適なタイミングに伝達することです。これらを通じて、オーディエンスの重なりを最適化し、過剰な発信をセーブすることにより、副次的にコスト削減効果を実現できます。IMCのプランニングモデルにも最適化項目の一つにコストが含まれており、効果とコストの双方の最適化を追求すること(=コストを最適化することで、浮いたコストを効果の高いメディアに振り向ける)が可能になっています。




購買ファネル

■購買ファネルの概念とは?
一貫したコンタクト・マネジメントと広告ROIの最適化を合わせて追求するに当たっては、以下のような購買ファネル概念の理解が不可欠となります。

消費者の商品認知から購買まではAIDMAに代表される購買行動プロセスが存在します。例えば、図3は一般的なBtoC商材の購買行動プロセスです。TVCMで商品を認知した消費者10,000人が、各広告やキャンペーンを経て興味を持ち、競合品との比較やサンプル試用を通じて購買を検討し、最終的に250人が購買するまでのプロセスを示しています。このように購買行動プロセスが進行するにつれて、各ステージに至る消費者数は少なくなり、当初購買導線にいた10,000人のうち最終的に購買したのは1/40の250人になります。こうした消費者の減少過程が口の狭い容器に液体を注ぐ漏斗(じょうご)に似ているため、購買ファネル(purchase funnel)と呼ばれています。購買ファネルは商品カテゴリによってもステージ構造が異なり、特に日用品と耐久消費財では各ステージの滞在期間も選考の深さも大きく異なります。

通常、コンタクト・マネジメントをプランニングする際には、事前に購買ファネルを調査し、購買までの導線を設計します。さらに、消費者が各ステージから次のステージに進むために最適と思われるメディアを選定して、トータルの広告費を配分していくのです。

購買ファネル

■購買ファネルを改善するには?
図3のようなファネルで最終購買者を増加させる施策は主に2つあります。

一つはファネル最上流の認知を拡大し、最終購買に至る消費者を増加させる施策です(図4)。この例では効果が低かった下流のキャンペーンを中止することにより、効果の高いと考えられる最上流に広告費用を集中しています。

もう一つはファネル下流のBTLのキャンペーンやインターネット広告に注力し、脱落率を減少させることで最終購買に至る消費者を増加させる施策です(図5)。この例では広告費に対して脱落率が高く、ROIの低いキャンペーンの内容を全面的に見直し、脱落率を引き下げることで最終購買を増加させています。

購買ファネルを改善する方法




タッチポイントの測定

IMCを使って、一貫したコンタクト・マネジメントの実現と広告ROIの最適化に取り組むに当たっては、購買ファネルの各ステージにおける消費者のタッチポイントをできるだけ正確に測定することが前提となります。例えば、TVCMによる認知度向上を検出するにはCM放映前後の認知度およびCM視聴状況を記録・分析する必要があり、キャンペーンによる購買意欲の向上を確かめるうえでは、キャンペーン前後の購買意欲や参加状況がデータとして取得されなければなりません。

前述した通り、タッチポイントの正確な測定が困難だったマス広告中心の時代には、広告ROIの測定はほとんど実施されていませんでした。変化が生じたのはインターネットが出現し、インターネット広告が登場したことがきっかけです。インターネット広告は、cookieを利用し、サイト来訪履歴や広告クリックの有無、検索ワードを取得するなど、消費者のインターネット上での行動を正確に記録することが可能となりました。さらに近年のアド・テクノロジーの進化とともに、取得できるデータの範囲や精度も向上しているため、TVCMの出稿を抑えてインターネット広告に振り分けるなど、広告全体の予算の適性配分しようという広告主側のニーズも高まっています。

ただし、一貫したコンタクト・マネジメントには、オンラインだけでなくすべてのメディアの有機的な統合が不可欠で、そのためにはオフラインも含めたタッチポイントの取得が必要となります。メディア接触だけでなく、友人との会話や店頭での情報接触まで含めた広範なタッチポイントを取得しなければなりません。

こうした広範囲にわたるタッチポイントの取得手法について、次回解説を行います。



まとめ

今回の内容を集約すると以下の5点になります。

①タッチポイントは企業・ブランドと顧客の接点すべてを指し、「顧客接点」と言われる。

②タッチポイントはIMC(統合型マーケティング・コミュニケーション)の登場でその重要性が認識されるようになった。IMCは顧客データベースをターゲット別にセグメンテーションし、顧客セグメント別に最適な手段、時期、場所で、一貫したコンタクト・マネジメントを行うことを提唱している。その枠組みとして4Cが提起された。

③広告ROI測定は、特にATL領域では困難であったため、試みられることが少なかった。しかし、メディアミックス戦略が一般的になり、限られた広告費を最適配分する必要性が強まってきたため、その重要性が認識されるようになった。IMCにも広告ROIの最適化はプランニング・フローに含まれている。

④広告ROIの最適化には、購買ファネルの理解が不可欠である。消費者の購買行動プロセスが進行するなかで消費者が脱落し、最終的に購買に至るのは最初に商品を認知した消費者のごく一部になる。購買ファネルを改善するには、最上流の認知段階の流入者を増やすか、購買行動プロセス途中の脱落を抑えるかのどちらかの施策で対応する。

⑤近年のアド・テクノロジーの進歩により、インターネット広告では正確なタッチポイント取得が可能になってきた。ただし、一貫したコンタクト・デザインにはオフラインを含めたすべてのタッチポイント取得が不可欠である。