調査票のいらない調査

■背景-アスキングの限界
旧来型の定量・定性調査は、リサーチャーが事前に作成した調査設計をもとに調査票を作成し、質問(アスキング)をしていました(図1)。この調査票とは調査結果に対するリサーチャーの想定を具体化したものだと言えます。

図1 旧来調査の枠組み


したがって、旧来型の調査は質問内容がリサーチャーの想定内にとどまるため、想定外の重要な内容が調査票から抜け落ちてしまったり、リサーチャーの想定と調査対象者の事実の間に大きな乖離があれば、調査結果そのものの信頼性に問題が生じたりする可能性がありました。いずれにしろ、アスキング中心の調査体系は、調査結果がリサーチャーの想定に依存するという決定的な問題点を内包していたのです。

■背景-無意識を把握する重要性
そもそもアスキングは、調査対象者が質問に対する回答を、意識して明確に引き出せることを前提にしています。そのため「何を購入したか」「どんな広告を見たか」といった事実ベースの質問であれば、記憶をたどって回答することは可能です。しかし、「ある商品を好きになる」「特定のブランドに対して何らかのイメージを持つ」といった行動のほとんどが無意識下のプロセスであり、質問されても意識的に表象化して概念構造を説明することは、そもそも不可能だと考えられます。


図2 「意識」と「無意識」の構造


人間の脳内プロセスにおいて自分自身が意識できる割合は5%程度(図2)と言われ、消費者の購買行動プロセスも同様の傾向にある可能性が高いと推測されます。そのため、無意識に行われている消費者の消費行動を調べるマーケティング・リサーチも、アスキング以外の方法で調査対象者の無意識下に沈殿している思考や反応、行動の脳内プロセスを把握することが重要だと認識されるようになってきました。

GMOリサーチでは、アスキングの象徴とされる"調査票"を使用することなく調査を実施する「調査票のいらない調査」の開発に長年取り組んできた経験を活かして、現在調査票を用いない調査手法を "Emotion Measurement Series" としてシリーズ化しています。




Emotion Measurement Series

GMOリサーチの展開するEmotion Measurement Seriesは、現在以下の4つの手法に分かれています。

表1 Emotion Measurement Seriesの調査手法
シリーズNo. 名称 内容
Series1 アイトラッキング 視線の動きを時系列に記録することで、質問することなく興味のある対象を検出、測定する。
Series2 GSR 皮膚の発汗度合いを測定し、刺激に対する反応を測定する。
Series3 EEG 脳波を測定することにより、感情の起伏を抽出する。
Series4 感性分析 表情変化、瞳孔径変化を測定し、Series1のアイトラッキングと組み合わせることで、どこに、どの程度の注目(関心)があり、どのような感情の起伏があったかを明らかにする。


これらはすべてアンケートやインタビューといったアスキングを実施することなく調査対象者の無意識下の反応を捉える「調査票のいらない調査」手法です。その詳細は以下のようになっています。


■Series1 アイトラッキング
人間は無意識のうちに興味のある対象に視線を向ける傾向があると言われています。 この性質を利用して、視線を計測することによって、調査対象者の視線の動きや滞留時間を時系列的に捕捉する手法です。

メガネ型のアイトラッカー(測定機器)を装着した調査対象者に店舗を回遊してもらうことで視線が集まる商品棚を把握したり、テレビに似た据置型を用いることで動画コンテンツの評価やWebユーザビリティテストを行ったりすることが可能です。


■Series2 GSR(Galvanic Skin Response)[ガルバニック皮膚反応]
皮膚表面の発汗は交感神経によってコントロールされるため、発汗の度合いを測定することで、調査対象者の高揚の状態を計測する手法です。

いわゆる「うそ発見器」に応用されているのと同様の仕組みとなっています。
発汗の度合いは、汗によって皮膚表面の電気抵抗のわずかな変化で感知することができます。


■Series3 EEG(Electroencephalogram)[脳波]
脳波計を用いて脳波を測定することで、調査対象者のリラックスした状態や集中した状態を識別する手法です。 与えられた刺激によって、調査対象者の精神状態がどのように変化したのかを引き出すことが可能となっています。


■Series4 感性分析
Series1で取り上げたアイトラッキングは、調査対象者が何を見ているのかを計測することができますが、無意識にどの程度注目し(関心を持ち)、注目する対象に対してどのように感じているのかまでを計測することはできませんでした。
そこで、GMOリサーチではアイトラッキングと株式会社夏目綜合研究所が開発・提供する「感性判定解析システム」をドッキングさせて、視線計測を行いながら、同時に調査対象者の情動反応や表情反応も計測できる「感性分析」をEmotion Measurement 4として提供しています。

感性分析を用いることで、アスキングを実施することなく、どこに、どの程度注目(関心)し、どのような感情を持っているかを可視化することが可能になりました。




Emotion Measurement4 感性分析

今回の連載で取り上げるEmotion Measurement 4感性分析は、株式会社夏目綜合研究所が開発・提供する「感性判定解析システム」をGMOリサーチの視線計測装置に組み合わせています。その主な特徴は以下の2点です。

①人間が刺激を受けるともっとも素早く反応し、意識的なコントロールが不可能な瞳孔径変化を解析することで、瞬間的な情動反応(注目度合い)を把握する。

②刺激を受けて顔に表れる表情反応を解析することで、感情度合いを把握する。

上記の判定と視線計測技術をリンクさせることで、視線を向けた際の調査対象者の無意識下での注目(関心)や感情の動きを定量的に捉えることに成功しています(図6)。




まとめ

今回の内容を要約すると以下の4点になります。

【1】旧来型の定量調査(アンケート)・定性調査(インタビュー)では質問内容がリサーチャーの想定内にとどまってしまうため、アスキング中心の調査体系は、調査結果そのものがリサーチャーの想定に依存するという問題点がある。

【2】人間は消費行動を含む行動のほとんどを無意識のうちに行っているため、事実ベースでない質問については、そもそも記憶の中から取り出すことができず、アスキングでは回答が不可能である。

【3】そのため、人間が無意識に表す反応や感情を計測できる調査の重要性が認識されるようになり、GMOリサーチでは「調査票のいらない調査」を"Emotion Measurement Series" としてシリーズ化している。

【4】"Emotion Measurement Series" は視線や生体反応といった、人間が意識的にコントロールできない反射的な反応を計測することで無意識下の反応を把握している。特にEmotion Measurement 4の感性分析では、株式会社夏目綜合研究所が開発・提供する「感性判定解析システム」を採用することで、人間の情動反応と表情反応を明らかにしている。




次回はEmotion Measurement 4感性分析を支えている感性判定解析システムについて、どのような技術を用いてデータ取得を行っているかを解説します。