過去の消費行動の記憶に左右されることが多く、無意識に行われる消費者の購買判断や感情の起伏の測定が難しいと言われてきたマーケティングリサーチ分野。ジャパン マーケット インテリジェンス株式会社(以下、JMI)は、人間の「意識領域」の他に、「無意識領域」もその分析の対象に入れて、消費者の行動をより科学的なアプローチで解き明かそうとしている。

ウェブにおける競争優位を構築するために

図1 EEG:脳波イメージ図

図1 EEG:脳波イメージ図


インターネット黎明期には、企業はただ標準的なウェブページを作成するだけで、他社とは違った切り口で自社のPRを行い、ページ内で物販を行って売上を伸ばすことができました。目新しいウェブページというものに消費者(ユーザー)は夢中になり、自ら積極的に情報を取りに来てくれたのです。ところが、インターネットが家庭や企業に浸透し、ウェブページが乱立するようになると、各々のウェブページの優劣が企業間競争の優劣を決するようになってきました。

ウェブページの優劣とは、ページ構成・デザイン・コンテンツの優劣であり、機能性のことを指しますが、Eコマース運営事業者にとっては、製品・サービスの内容、価格設定やキャンペーン内容、なども含めたトータルなウェブ戦略が必要になっています。他社と比べて優位に立とうとすればするほど、細かく消費者(ユーザー)のことを把握し、丁寧にこれに対応していかなければなりません。

消費者(ユーザー)は製品自体に満足しているだろうか、価格はどうか、キャンペーンを打ったらどうか、どんなプロセスで購入に至るのだろうか、意思決定を行っているのは誰だろうか、そもそもどんな属性の消費者が自社の製品・サービスを買っているのだろうかなど、より細かく消費者を見ていかなければなりません。中でも、消費者(ユーザー)のウェブにおける購買プロセスを精緻に測定することができれば、ウェブにおける有効な戦略を立案することができるはずです。



消費者の購買意思決定プロセスと感情の起伏

図2 消費者の購買意思決定モデルとしての”AIDMA”図

図2 消費者の購買意思決定モデルとしての”AIDMA”図


図3 GSR(Galvanic Skin Response)の装着イメージ

図3 GSR(Galvanic Skin Response)の装着イメージ


図4 アイ・トラッキング装置装着のイメージ

図4 アイ・トラッキング装置装着のイメージ


図5 アイ・トラッキング視聴行動調査イメージ

図5 アイ・トラッキング視聴行動調査イメージ


サミュエル・ローランド・ホールが提唱した消費者の購買意思決定モデルとして、”AIDMA”(Attention;注意→Interest; 関心→Desire; 欲求→Memory; 記憶→Action; 行動)という有名な概念があります。

消費者はある商品の存在を認知した後に、その商品に対して「注意」を喚起し、「関心」を抱き、その商品を手に入れたいという「欲求」が生まれます。更に、その「欲求」が「記憶」となり、具体的な購買「行動」に移ることを表したモデルがAIDMAです(図2)。

JMIではこれまでも、AIDMAに着目することで、消費者が購買を行う際の無意識な意思決定プロセスを様々な測定機器により明らかにしてきました。

例えば、消費者の感情の起伏は、肌の電気伝導力を測定するGSR(Galvanic Skin Response)を用いて解釈することができます。GSRは指先に特殊な機器を装着し、広告などの視聴時の指先から発生する微弱電流を捉えることで感情の変化を測定します(図3)。

GSRは感情の起伏そのもの(気持が高揚したか否か)を知ることができ、広告、ウェブサイト、商品に対する消費者の「注意」の度合いを測定することができますが、「何に対して」注意を払ったか、「どのように」注意を払ったかが分からないため、購買意思決定プロセスにおける「注意」の上位概念である「関心」や「記憶」の度合いを測定することができません。

一方、アイ・トラッキングによる視覚行動の測定は、消費者の凝視の範囲と時間を特定しながら「注意」の度合いを測定します(図4、図5)。アイ・トラッキングによる視覚行動の測定は、「何に対して」注意を払ったかを知ることができますが、GSRと同様に「どのように」注意を払ったかが分からないため、「関心」の度合いや「記憶」の度合いを知ることができません。

JMIでは、これまでGSRとアイ・トラッキングを併用することで、消費者の「注意」の対象と度合いを調べてきましたが、「脳波の測定」を視野に入れることで、消費者が広告、ウェブサイト、商品など企業のマーケティング活動に対して「どのように」注意を払ったかを明らかにしていくサービスを提供する予定です。



脳波によって感情の起伏を精緻に測定する

消費者は広告を見たり、ウェブサイトにアクセスしたり、買い物をしたり、購入した商品を使用したりという様々な場面で脳を活動させています。脳の活動は言わば感情の起伏であり、広告、ウェブサイト、買い物、商品使用時における感情の起伏を測定するのが、マーケティングリサーチ分野における脳波の測定です。消費者の購買意思決定の理由や商品に対する気持ちを知るために、アンケート調査やインタビューを通じて、感情の起伏を「言葉」で表現するのがこれまでの調査手法でした。

しかし、従来型の調査手法の問題は、
・調査協力者が、上手に自分の考えを表現できなかったり、過去の記憶が曖昧であり、アンケート調査やインタビューの結果がすべて事実に近いものであるか定かではないこと
・消費者は、自分の消費行動の結果に対して、いつもその理由を考えているわけではなく、アンケート調査やインタビューにおいては恣意的に答えを作り出そうとする傾向が強いことにあります。

そこで、これまでの連載で述べてきたアイ・トラッキングによる視覚行動の測定や、今回ご紹介する脳波の測定で得られたデータを補完することで、これら従来型の調査手法の問題を克服することができます。



JMIのEEGソリューション(脳波の測定装置)

消費者が感情を起伏させたとき、脳全体が活性化されるわけではなく、「注意」、「関心」、「記憶」の感情に応じて活性化する部位などが異なることが分かってきました。JMIが導入を予定しているEEGソリューション(脳波の測定装置)は、大別して以下の3種類の感情の起伏を測定し、無意識下の消費者行動プロセスの解明に迫ることができる可能性があります。

・注意の度合い; Attention
・関心の度合い; Interest
・記憶の度合い; Memory

図6 EEGソリューションのヘッドギアの装着イメージ

図6 EEGソリューションのヘッドギアの装着イメージ


図7 EEGソリューション脳波イメージ

図7 EEGソリューション脳波イメージ

JMIの「EEGソリューション」はヘッドギアの装着が簡単であり、しかもデータ記録装置との接続がワイヤレスのため、被験者が自然な状態で脳波を測定することができます(図6)。

また、データ記録装置の特徴として、リアルタイムでの脳波を表示することができるため、すぐに測定結果を見ることができたり、その結果に応じてインタビューなどの意識レベルの調査を同時に実施することが可能です(図7)。

さらに、JMIの強みであるアイ・トラッキングによる視覚行動測定との併用により、被験者の「注意」の対象と「注意」、「関心」、「記憶」の度合いを知ることができます。

前回までの連載でお伝えしたアイ・トラッキングによるウェブサイトのユーザビリティ評価も、この「EEGソリューション」を用いることで「注意」、「関心」、「記憶」の度合いまで踏み込んだデータを収集できるようになり、消費者の購買意思決定プロセスにより適合した改善が可能になります。

JMIでは、「EEGソリューション」の導入と実用化に向けて、基礎研究段階のデータを収集しているところです。ウェブ進化は、脳波の測定によってもたらされる。こうしたアプローチが企業のウェブ戦略を変える日が間近に迫っていることは間違いなさそうです。

*EEG; 脳波、Electroencephalogram





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