アドテクノロジーの発展に伴うオンラインのタッチポイント構造分析の変化

■アドネットワークの登場
一般家庭にインターネットの普及が始まった1990年代前半からインターネット広告はありました。初期のインターネット広告は、メール広告や自社メディアに画像やフラッシュを置くディスプレイ広告が中心でしたが、次第にポータルサイトやホームページ内に広告枠を設けて、広告主に提供するメディアが現れるようになりました。

90年代後半には、これらの広告枠をアドネットワークとしてまとめて一元管理するインターネット広告会社(※1)が登場しました。アドネットワーク登場以前には、広告主は数多くの媒体と個別に発注業務を行う必要があり、しかも課金体系が媒体ごとに異なっていたため、上手く活用されない広告枠が数多くありました。これらが、インターネット広告市場が有望だと言われながらも全体としてはなかなか大きく成長できない要因でした。

しかし、アドネットワークが登場したことで、広告主はアドネットワーク事業を一括して行っているインターネット広告会社に発注することで、最適なメディアへの広告出稿が可能になり、課金体系も統一されることによって価格の透明化も押し進められました(図1)。

(※1)90年代後半、ITバブルの拡大に伴って急成長したのがダブルクリック社やアクアンティブ社等、ディスプレイ広告に特化したインターネット広告会社である。しかし、2000年代以降に検索連動型広告が主流となると一時の力を失い、2007年に前者はGoogleに、後者はマイクロソフトに買収された。この頃、検索エンジンを保有している企業が運用する検索連動型広告が主流となったのは、検索時にユーザーは購入しようとする製品を明確に意識しているので、検索内容に連動した広告を表示する方法が、それまでのディスプレイ広告より高いクリック率を期待することができたからである。ディスプレイ広告が復権するには、後述の配信効率最適化技術とアドエクスチェンジの仕組みが必要であった。


■アドネットワークの配信効率最適化技術
アドネットワークの登場によって、一般に「行動ターゲティング」と言われる広告配信の最適化技術が大きく発展しました。従来は、自社サイトにアクセスしたユーザーに対して、HTTP cookie(以降cookieと表記)を用いた訪問者を識別するテキストファイルをユーザー側端末に付与し、ブラウザが自社サイトサーバーにアクセスした時のみ、再度広告を配信するといった限定した運用しか行われていませんでした。しかし、アドネットワーク内にある広告枠をコントロールできるようになったことで配信効率は大きく向上したのです。以下にその代表的な例を紹介します。



・リターゲティング
自社サイトへの訪問後、購買しないで離脱したユーザーをcookieで追跡し、アドネットワーク内の別サイトにアクセスした際に、広告枠に自社商品・サービスの広告を再表示させる技術です。

具体的には、アドネットワーク内にある別サイトのページにアクセスすると、すでにアドサーバーに蓄積されていたcookie情報やアクセス履歴情報を参照することで、そのユーザーのブラウザであることを特定し、当該ページの広告枠に自社の広告を配信しているのです(図2)。




・ オーディエンスターゲティング
自社サイトへの訪問・未訪問に関係なく、次のように履歴追跡をさらに拡張するロジックを実行します。

ロジック1
自社サイトの訪問ユーザーと似通ったアクセス履歴を持つユーザーに対して、アドネットワーク内の広告枠に自社広告を配信する。

ロジック2
ユーザーの行動特性から興味・関心の対象をカテゴライズしたうえで、対象とするユーザーに対して、アドネットワーク内の広告枠に自社広告を配信する。

このようにユーザー単位で個別の追跡を行うのではなく、cookieによって取得したアクセス履歴を解析することで、広告に触れた際の反応確率が高いと考えられるユーザーを統計的に抽出し、対象オーディエンスに対して広告配信を行います(図3)。



このような配信効率最適化技術について、当該Webサイトの運営者とは異なる第三者(サードパーティー)がユーザーの行動履歴追跡に使われるcookieをWebブラウザに付与するケースが近年増加しています。このことに関するプライバシーの問題が現在活発に議論されています。

上記のいわゆる行動履歴情報は、わが国の個人情報保護法第2条が定める個人情報には該当せず、個人を特定するものではありません。しかしながら、ユーザーに利用を強制することはできないので、アドネットワーク事業者の業界団体であるJIAA(インターネット広告推進協議会)は、2009年に行動ターゲティング広告ガイドラインを次のように定めています。

・取得目的・内容・事業者・期間・手法等を明示的に掲載する。
・ユーザーが利用の許諾・拒否を選択できる(オプトイン・オプトアウト)。


■アドネットワークが可能にしたオンラインのタッチポイント構造分析
オンライン上でタッチポイントの構造分析を行う際には、ユーザーがサイトにアクセスするまでの行動履歴を漏らさず取得する必要があります。しかし、アドネットワーク普及以前の時代は、ある企業が保有する自社サイトに、ユーザーがアクセスするまでの行動履歴を調べようと思っても、その直前(※2)の最終コンバージョンしか特定できず、それ以前のことを知ることはできませんでした(図4)。

(※2)アクセスログ内にリファラーと呼ばれる情報が含まれ、直前に当該ブラウザが閲覧していたURL情報が格納されている。このリファラーを抜き出すことで、最終コンバージョンを特定することが可能。ただし、リモートユーザーの申告制であるため、値がない場合や虚偽のケースもあり得る。



アドネットワークが存在しない場合である図4の例は、購買ファネル内で重要と考えられる以下の情報を取得できないことが分かると思います。

・単語Bを検索して多くのユーザーがサイトEに訪れているのに、そこで高い割合の離脱が発生していること。
・自社サイトからオンライン購買ページにダイレクトにアクセスせずに、多くのユーザーがサイトDを経由しており、そこからオンライン購買ページへ戻る際のコンバージョンが低くなっていること。

一方、アドネットワークが普及し、連携してユーザーのアクセスログデータを提供してもらえる今日では、アドネットワークに参加する多くのサイトを通じたユーザー行動履歴を把握することが可能になっています。


例えば、図5のように購買ファネルを構成するすべてのサイトや検索語が把握できたとすると、全貌が不明な図4の場合と比較して、ファネルからの離脱防止に向けた的確な改善方策を立案することができるようになります。

最近では、広告主と媒体が複数のアドネットワークを束ねた広告枠をリアルタイムで取引するアドエクスチェンジが一般化しています。また、広告主側から複数のアドネットワークやアドエクスチェンジに自動入札できるDSP(Demand-Side Platform)が発展するとともに、いったん離脱した後で購買したり、広告以外のルートを経由して購買したりする、クリックはされなかったが、表示されることによって購買を喚起したと考えられるビュースルーコンバージョンまでを考慮した、より正確なROI分析が試みられるようになっています。これらを通じて、広大なインターネット領域でユーザーの行動履歴を把握しながらタッチポイント構造を改善することも可能になりつつあります。




オフラインも含めた現状のタッチポイント取得調査の課題

■現状のタッチポイント取得調査の課題
前段で説明したように、オンライン上のタッチポイントは、アドテクノロジーの発展に伴って正確なコンタクト履歴を取得できる環境が整ってきました。しかし、実際に消費者が商品・サービスを購入するまでに接触するタッチポイントはオンライン上だけではなく、リアルなオフラインの世界にこそ数多く存在します。

ところが、オフラインの世界には、オンラインのcookieのように、ユーザーに負担をかけずにタッチポイントデータを取得する仕組みはありません。そのため現時点ではタッチポイントに接触するたびにモバイルからその事実をアップロードしてもらうのがもっとも正確な手法(※3)だと考えられています。

(※3)タッチポイント取得調査については、以下の本リポートVol.2.「広告ROI分析の一連の流れおよびタッチポイント測定手法の説明」を参照。

しかし、この手法ではタッチポイント取得調査に参加する調査対象者にとって大きな負担となるだけでなく、自動取得でないためその正確性も100%は保証できません。また、調査対象者に負担を強いるということは、途中で参加者が離脱してテレビCMしか見ていない人だけが残ってしまうなど、データにバイアスがかかる可能性があります。また、離脱を防ぐには謝礼を支払うなど高額のインセンティブが必要となることも考慮しておくべきでしょう。




今後のタッチポイント取得調査改善の方向性

■タッチポイント取得調査改善の方向性
オンラインのタッチポイント取得においてユーザーの負担がかからないのは、cookieを用いた自動取得の仕組みが確立しているからです。同様に、オフラインのタッチポイントを全方位で取得するうえでは、調査対象者の負担軽減を目指して、できるだけデータを自動的に取得できるよう設計していく必要があります。そこで今後は次のような手法を検討すべきだと考えています。


■検討すべき手法
・Internet of Things : IoT(あらゆる製品・部品がインターネットに接続されること)
今日では、多くの電子機器類がインターネットと連動して機能するようになっています。一例として、インターネットに接続されたスマートテレビが挙げられます。これまでは調査対象者がテレビCMに接触したら、該当日の電子番組表を組み込んだモバイルアンケートに回答してもらったり、テレビに特殊な機材を取り付けて番組のON/OFF情報を検知したりといった手法を導入していました。ところがスマートテレビでは、原理的にはインターネット経由でリアルタイムに視聴の有無をサーバー内に貯蔵することが可能となるため、調査対象者のパーミッション許諾以降は、自動的にデータ取得が行われ、調査対象者がアクションを起こす必要はなくなります。


・ウェアラブルデバイス
メガネ型、腕時計型、衣類統合型など、ここ数年でさまざまな形態が出揃ったウェアラブルデバイスは、タッチポイントの自動取得という点でも次世代のメインデバイスとなる可能性を秘めています。現在、iBeacon(アイビーコン)が登場し、来店時にアプリをダウンロード済みのスマホにクーポンなどを配信できるなどIoT環境が広まりつつあります。今後、屋外広告や製品パッケージなどのタッチポイントにコンタクトした際、ウェアラブルデバイスを介して、オンラインのcookieのように調査対象者に負担をかけずにデータを自動取得ができることが期待されています。





まとめ

今回の内容を集約すると以下の4点になります。

①アドネットワークはディスプレイ広告の配信効率を最適化するために生まれた技術で、リターゲティング、オーディエンスターゲティングと呼ばれる最適化機能も有している。

②アドネットワーク登場以降、オンライン上のタッチポイントについてアクセスログを取得できるようになり、購買ファネルの可視化や改善も可能になった。

③実際のタッチポイントはオフラインにこそ広く存在しているが、オンラインのような有効なデータの自動取得は困難なため、現在はモバイルデバイスを用いたアンケート調査形式でタッチポイントを取得している。

④オフラインのタッチポイントも調査対象者に負担をかけない自動取得が求められているが、その実現に向けてはInternet of Things : IoT(インターネット接続された情報機器)やウェアラブルデバイスに大きな期待がかけられている。





次回はタッチポイントシリーズの最終回となり、全体総括と今後の展望を予定しています。