マス広告全盛期の広告ROI測定

認知度向上やブランドイメージ浸透を主目的としているマス広告は、厳密なROI測定は困難とされてきましたが、広告費算出の根拠としての広告効果測定は以前から行われていました。その代表的なものがテレビのスポットCMを評価するため、視聴率(※1)を元に算出されていたGRP(Gross Rating Point延べ視聴率)(※2)です。

毎分平均視聴率1%の番組に、テレビCMを1本流すことを1GRPと表し、大手FMCG(日用消費財)メーカーでは新商品プロモーションに数千GRPを投下して、売上高と比較する広告効果測定を行っています。人間は通常1回くらいCMを見た程度では記憶できません。そのため最低6回(=600GRP)はCMを打つ必要があると言われています。同様の考え方で、雑誌はページ単位、新聞は段単位で、閲読率や購読率と掛け合わせることで露出量を算定します。

近年は、タイムシフト視聴に加え、モバイルやPCからの視聴も含めて、より正確に広告効果を測定するための仕組みが、多くの企業で模索されています。

(※1)テレビ保有世帯が当該番組をどの程度の割合視聴したか表す推定値であり、ビデオリサーチ社が全国6,600世帯を対象に実施している。

(※2)視聴率×CM放映回数で表され、視聴率10%の番組内で50回流せば500GRPになる。

テレビのタッチポイント推定




メディアミックスの広告ROI測定

IMC(統合型マーケティング・コミュニケーション)が1990年代に登場し、今日では複数のメディアを組み合わせたメディアミックス戦略が一般的となっています。そうなると、広告費を最適配分するために、オフライン広告、会話、店頭キャンペーンなど、さまざまなタッチポイントのROIを測定する必要が生じてきました。前回は、こうしたタッチポイントを測定する手法を解説しましたが、今回は取得したタッチポイントデータからどのように広告ROIを算出するかについて、次の事例を使って解説したいと思います。


■広告ROIの算出項目
今回の事例では、1個100円の利益がある商品を10万個販売する際に、TVCMに500万円、雑誌広告に200万円、ネット広告に100万円の計800万円の広告費用をかけ、プロモーション活動を実施し、表1のような効果が算定されると想定した単純なモデルを表しています。

本連載1回目で、広告やプロモーションに関する費用にはATL:above the line=将来価値を生む「投資活動」、BTL:below the line=短期的に価値を生む「営業活動」の2つがあると説明しました。そこから考えると、購買(直接的な購買効果)=BTL、認知度・イメージ向上=ATLだと言えるでしょう。つまり、以下の購買合計額1,000万円は製品の売上高合計ですが、認知度向上の効果480万円分、イメージ向上の効果630万円分は、認知度・イメージの1%向上を20万円として算出した仮想の効果で、その分だけ企業のブランド価値や信頼度が向上していることを表しています。

広告効果の算出イメージ

ROI算定の際に考慮するメディアの価値項目として、この他に購買意向や関心度の向上、知人・友人とのシェアなどがあるので、たとえ購買に直結しなかったとしても目的に合わせたキャンペーンを実施する意味はあると言えるでしょう。

こうした各メディアの広告効果測定の中で、オンライン広告の場合はアトリビューション分析と呼ばれる方法が利用され、第三者配信広告サーバとcookieを使って、購買に至るまでのオンライン上のタッチポイントが緻密に把握できるようになっています。


■アトリビューション分析1(表1「購買」に関する広告効果算定過程)
アトリビューション分析は、メディア別のコンバージョンに対する貢献度合いを評価する手法です。表1の事例の「購買」に関する広告効果の算定過程を以下に示します(図2)。貢献度の算定には、どのようにウェイトをかけるかで複数のモデルが存在しますが、ここでは、すべてのタッチポイントに対して、均等にウェイトをかける線形モデルを採用しています。


「TVCM」「雑誌広告」「ネット広告」に800万円のコストを投入したキャンペーンを実施し、10万個の購買に結びつきました。
そのうち、
「TVCM」⇒「雑誌広告」⇒「ネット広告」で①購買3万個、
「TVCM」⇒「雑誌広告」で②購買3万個
など、5パターンのタッチポイントで合計10万個が購買されました。

ここで単純にCPA(Cost Per Acquisition:1件当たり支払額)を算出すると800万円÷10万個=80円/個ですが、タッチポイントが分かっているため、各メディア別のコンバージョンの貢献度合いを測定可能です。

図2内のタッチポイントフロー①で、「TVCM」「雑誌広告」「ネット広告」の各々に貢献度を割り振ると1万個ずつになります。同様に②③④⑤を含めた5パターンのタッチポイントフローにおいて、購買10万個のうち「TVCM」の貢献度は4万個、「雑誌広告」は3.5万個、「ネット広告」は2.5万個になります。これらをもとにCPAを算出すると、「TVCM」は125円、「雑誌広告」は57.1円、「ネット広告」は40円になるのです。

また、1件当たりの利益が100円であるから、各メディアの広告価値は

・TVCM  = 100円×40,000個 = 400万円
・雑誌広告 = 100円×35,000個 = 350万円
・ネット広告= 100円×25,000個 = 250万円

ということになります。


■アトリビューション分析2(表1「認知度向上」に関する広告効果算定過程)
次に、表1の事例の「認知度向上」の広告効果の算定に際しては、初回のファーストコンタクトのみにすべてのウェイトを割り振る起点モデルを採用しました。企業や商品認知度が低い場合、初回にアピールするメディアやコンテンツが重要なので、このモデルを利用することは有効だと言えます。


前述したように、仮に認知度1%の向上を20万円と換算すると、

・TVCM  = 20万円× 22% = 440万円
・雑誌広告 = 20万円× 2% =   40万円
・ネット広告= 20万円× 0% =    0万円

といった形で算出することができます。

これ以外にも、最終的に刈り取った最終コンバージョンだけにウェイトをつける終点モデル、時間経過に合わせてウェイトを軽くしていく減衰モデルなど、さまざまな貢献度算定モデルがあります。



タッチポイント構造の傾向分析を行うためのアソシエーション分析

アソシエーション分析とは、CRMにおいて顧客の購買傾向を分析するために、1990年代に生まれた手法で、膨大なトランザクションデータ(購入履歴)から有用な情報を抽出することが可能です。

タッチポイントに関して収集されるデータは、対象ブランドや商品、対象者数が増加するにつれて膨大な量となるため、タッチポイントを通じた顧客行動の傾向分析、引いてはファネルの構造分析を行うために有用な手法になります。


■アソシエーション分析
アソシエーション分析の目的は顧客の購買傾向を分析し、適切と考えられるレコメンデーション(未購買者へのリーチ、商品棚の構成最適化、戦略的なセット販売…)を行うことにあります。それらを実現するために、3つの数値を使って分析を進めます。

たとえば、あるハンバーガーチェーンにおいて、一日に10,000個の商品の売上げがあり、そのうちポテトが4,000個、ハンバーガーが2,000個それぞれ購買され、そのうち1,000個は併買されていたとします(図4)。


ここで基本となる数値が「信頼度」です。これは「Aを購買した人がBも同時に購買する割合」であり、関連の高さを示します。

図4からは
「ポテトを購買した人がハンバーガーも購買する割合」=1,000/4,000=25%
「ハンバーガーを購買した人がポテトも購買する割合」=1,000/2,000=50%
と信頼度を算出できます。

たとえば後者は「ハンバーガーを購買した人の50%がポテトも購買している」と表現でき、信頼度が高いほど、高い確率で併買が発生することを示しています。こういった確率の高い購買傾向をアソシエーションルールといい、これを見つけ出すことがアソシエーション分析なのです。それでは、信頼度をベースにして、信頼度の高い組合せを対象にレコメンデーション施策を構築すればよいかというとそうでもありません。そのために、アソシエーション分析では残り2つの数値で信頼度の正確さを担保します。それが「支持度」と「リフト値」です。

「支持度」は「購買全体のうちAとBが同時に購買された割合」を示します。
図4の例では
「購買全体のうちポテトとハンバーガーが同時に購買された割合」 =1,000/10,000=10%
となります。

これによって購買全体におけるインパクトが分かります。この数値が低い組合せの場合、一般的な傾向ではなくレアケースとなるため、レコメンデーションを行う意味のない可能性が出てきます。

また「リフト値」は「購買全体の中でBが購買される割合に対して、Aを購買した人がBを購買する割合」を示しています。
図4の例では、
「購買全体の中でハンバーガーが購買される割合に対して、ポテトを購買した人がハンバーガーを購買する割合」
 = 信頼度(特定の商品に対する併買割合)/購買率(全体の中で購買割合)
 =(1,000/4,000)/(2,000/10,000)=1.25

一般にリフト値が1.0を大きく超えていればレコメンデーションの意味は高いと言えます。

しかし、リフト値が1.0以下ということになると、購買全体の動向としても、ポテトを購入した人に限定した動向としても、ハンバーガーが購買される確率は同一もしくそれ以下となるため、レコメンデーションの意味は薄いと言えるでしょう。どのような商品に対してもよく購買される定番商品との組合せは、リフト値が低くなる傾向になります。

上記のように、全組合せに対して「信頼度」「支持度」「リフト値」でスクリーニングをかけ、確率が高いと考えられるアソシエーションルールを引き出すのが、一般的なアソシエーション分析の手法です。


■アソシエーション分析のタッチポイント解析への適用
タッチポイントデータも、商品アイテムの購買データと同様のトランザクションデータであり、したがってアソシエーション分析が可能です。

仮に、1週間の新商品キャンペーンを「TVCM」「新聞広告」「屋外広告」で実施したとします。前述のとおり、事前・事後調査とタッチポイント取得調査を実施することでROI算出は可能ですが、「もっとも口コミを引き起こしているメディアは何か」「何回以上コンタクトされると来店するか」という点になると、アソシエーション分析が有効となります。表2はタッチポイントデータをキャンペ―ン開始からデイリーで集計したイメージです。

これらのデータを1週間にわたって蓄積し、「信頼度」「支持度」「リフト値」を算出することで表3のように有効なアソシエーションルールを検出することができます。表3においては、信頼度80以上、支持度70以上、リフト値1.1以上で検出し、すべてに当てはまるルールをオレンジ色のセルで示しています。

これにより、「TVCMを見た人の87.5%が店舗に訪れた」「TVCMを見た人の100.0%が口コミを行っている」といった知見が得られ、ファネルのどこに重きを置くべきか、または改善検討につなげることが可能になります。

また、アソシエーションルールは「TVCMを2回(3回、4回・・・)見た」「屋外広告とTVCMをともに見た」といった条件設定、さらに事前・事後調査と組み合わせて「TVCMで認知し、新聞広告で購入を決定した」といったさまざまな条件を設定可能です。




まとめ

今回の内容を集約すると以下の2点になります。

・広告ROIの算定手法のひとつにアトリビューション分析がある。購買、認知、イメージといった各項目別で、メディアごとの貢献度を評価することで算出を行う。アトリビューションの貢献度算定には、どのようにウェイトをかけるかで複数のモデルが存在する。

・タッチポイントの傾向分析を行う手法のひとつに、CRMにおいてよく用いられるアソシエーション分析がある。複数のタッチポイントの関係性を捉えるために利用でき、膨大なトランザクションデータから、購買ファネルの特徴的な情報を見つけ出すことができる。




次回は、アドテクノロジーの発展に伴って、タッチポイントの構造分析が可能になっていった過程を振り返り、アドとマーケティング・リサーチが融合しつつある現状で、「タッチポイント取得調査が今後どのようになっていくか」「広告はどのような形態に変化していくか」について述べたいと思います。