課題解決を考えるうえでの基本

~コミュニティとして成立させることがMROCの必要条件~
MROC(Market/Marketing Research Online Community)は、コミュニティ内での調査対象者の自発的な意見交換を前提としています。そのため、MROCを使って調査を行う場合は、調査対象者の集団をコミュニティとして成立させることが必要条件とされています。

前回のレポートで見えてきたMROC運営・分析上の課題に対する対策を考えるうえでは、図の【1】調査対象者がコミュニティ化され、ラポールが形成された集団、【2】調査対象者がまったくコミュニティ化されていない集団で対応が大きく異なってきます。


前者【1】ではMROCを実施する素地が整っていると思われるため、今回のレポートでは後者の【2】調査対象者がまったくコミュニティ化されていない集団でMROCを運営した際に生じる問題を解決するための対策について述べてみたいと思います。

集団の性質 【1】調査対象者がコミュニティ化され、ラポールが形成された集団 【2】調査対象者がまったくコミュニティ化されていない集団
調査期間 中長期/短期 中長期(約1ヶ月以上) 短期(約2週間以内)
コミュニティの性質 既にラポールが形成されており、コミュニティ内で最初から活発なディスカッションが期待できる。 MROCのために集められた集団だが、調査期間内でラポール形成の仕掛けをすることで、今後のコミュニティ化が期待できる。 MROCのために集められた集団で、調査設計上、調査期間内にラポール形成のための十分な時間がないことが明らかである。
事例 ブランデッドコミュニティ/オフラインで既にコミュニティとなっている集団をオンライン化したもの 戦略的にコンシューマ・インサイトを引き出すために設置されたMROC 短期で明確な課題を解決するために設置されたMROC




課題解決に向けた基本的方針

~中長期(約1ヶ月以上)と短期(約2週間以内)では対応が異なる~
(1)まったくコミュニティ化されていない集団の中長期MROC(約1ヶ月以上)

1ヶ月以上の時間的な余裕があるため、本調査開始前の調査対象者のリクルーティング、プラットフォーム設定、モデレーションなどでさまざまな施策の工夫をしていけば、次第にラポールが形成され、活発なディスカッションを期待できると思われます。


(2)まったくコミュニティ化されていない集団の短期MROC(約2週間以内)
1~2週間の短期MROCでは、調査対象者間のラポールを成立させる時間的な余裕がなく、それほど活発なディスカッションを期待できません。そこで、アスキング中心のオンライン定性調査と割り切って運営したり、他の調査手法と組み合わせたりすることで、課題解決のためのインサイトを引き出すことができるのではないかと思われます。


■MROC運営の基本的方針

MROC運営の基本的方針




中長期MROCにおける課題解決に向けた対策

~企画設計段階から積極的に施策を展開していくことが重要~

次の4点を中心に、企画設計段階から調査対象者同士のラポールを深めていくための工夫を積極的に導入していくことがポイントになります。

(1)リクルーティング
本調査前のリクルーティングがディスカッションの方向性に大きな影響を与えると言われています。そのため、テーマとする製品やサービスに対して強い親和性があったり、過去にMROC参加経験があったりする調査対象者をオンラインアクセスパネルからリクルーティングすることで、より活性化したコミュニティを形成することが可能になります。

(2)プラットフォームの工夫
個別にリクルーティングされてきた調査対象者の集団にいきなり「しゃべってください」と言っても、会話が盛り上がるはずはありません。そこで、Facebookの「いいね!」ボタンのように簡単にやり取りできる機能や調査対象者同士の日常を知る機会となる日記機能を追加することで、お互いが次第に親近感を覚えるようになり、コミュニティへの関与度が高まることも期待できます。


プラットフォームの工夫

(3)インセンティブ設定
調査対象者への金銭的な報酬は、書き込み頻度・量・内容などによる成功報酬的な要素を加えることで活動へのモチベーションが高まるとされています。ただし、単に謝礼をもらえば書き込み量が増えるわけでもないようです。そこで、多くの書き込みを行うアクティブな調査対象者の発言について、モデレータがコミュニティ内で取り上げるフォローアップを行ったり、書き込み量に応じてレベルアップできたりするなどゲーム感覚的な発想で精神的な満足を高めるような施策も有効だと言えます。


(4)モデレーション
モデレーションの基本は調査対象者にタスクを与え続けて“ヒマ”にしないことです。ただし、最初は比較的簡単に投稿しやすく、毎日ログインする習慣がつくようにするところからスタートします。その後、モデレータはコミュニティの成熟度合いを見ながら、対象者同士の関与度を強めるタスクを実施したり、いい意見が出されたら積極的な反応を示したりすることで、さらなる会話の盛り上がりが期待できると思います。




短期MROCにおける課題解決に向けた対策

~オンライン定性調査的な手法を取り入れて運用~
調査対象者間で積極的な意見交換が発生することをあまり期待せずに、細かいコントロールや個別のインタビューから効率的にインサイトをまとめ上げることを基本方針にすることがポイントです。


(1)アスキング中心の運用
2週間程度では調査対象者同士でコメントを頻繁に付け合うといった関係性を築くのは難しいため、事前に決めたディスカッションガイドに沿ってモデレータがタスクを与え、それに対して調査対象者が書き込みを行うという流れで進行します。短期MROCの場合は、オンライン定性調査に近い運用の方が結果を導きやすいと思われます。


(2)調査目的の精選・共有
短期MROCでは「製品についてどう思いますか?」といった抽象的な質問ではなく、製品使用時の特定部分にフォーカスした投稿を求めた方が能動的かつ効果的な回答を得られやすいと思われます。また、あまり意見が出ない場合は、eエスノグラフィ(観察調査)を活用して製品使用状況を画像や動画で投稿してもらうことも有効です。


(3)デプスインタビューの利用
有用な発言をしている調査対象者を選定し、メール・チャットで個別に突っ込んだインタビューを実施することで、インサイトの抽出が可能になります。また、調査対象者に実施するタスクをデプスインタビューを行うための事前調査ととらえて、デプスインタビューをメインにした運用もありえるのではないかと思います。


(4)プレタスクの実施
短期MROCでは調査対象者がプラットフォーム操作に慣れて発言が増えてくる頃には本調査が終わってしまう可能性もあります。そこで、本調査前にプラットフォーム操作やモデレータとのやり取りを体験するプレタスクを実施しておくことが重要です。




MROC本調査開始までの準備

以上の方針に沿ってMROCを実施する際、本調査開始までに準備することをまとめました。大きく分けると4項目になります。

 ・調査設計
 ・プラットフォームの準備
 ・調査対象者リクルート
 ・コミュニティ初期運営

これらを平行して実施していくことになるため、事前に関係者内で詳細なスケジューリングを行い、遅滞なく進めていく体制を構築しておく必要があります。また、不測の事態が発生した際の対処方法を決定しておくことも不可欠です。


■MROC本調査開始までの準備

実施内容の決定 1 調査目的
2 対象者条件
3 タスク内容(プレタスクを含む)
4 モデレーション方針
5 アウトプット内容
プラットフォーム 1 プラットフォーム選定
2 プラットフォーム契約
3 仕様の決定(タイトル、基本機能など)
4 操作マニュアルの準備
5 関係者内での運用テスト
6 付加機能の検討
7 仕様の最終決定
リクルート 1 対象者条件決定
2 スクリーナー作成
3 リクルート時に対象者に提示するテスト内容の決定
4 募集画面作成
5 対象者リクルート開始
6 候補者選定
7 候補者への参加確認
初期運用 1 プラットフォームへの誘導
2 実施要項の提示(目的、期間、ルール、謝礼などについて)
3 参加同意者のログイン状況確認
4 プレタスクの実施/トピック提示
5 プレタスクへの参加状況確認
6 未参加者への督促




まとめ

~MROC本来のインサイトを得るためには中長期的な運用が必要~
最後に、MROC運用・分析について中長期・短期ごとにまとめてみました。

<運用全体について>
中長期MROC
調査対象者間のラポールを形成するためのさまざまな方策を適宜実施します。ただ、いったんコミュニティが成立すれば、細かくコントロールしなくても、調査対象者間のやり取りに耳を傾けることに専念できるようになります。

短期MROC
お互いが初めて出会う調査対象者間で、コミュニティを形成する時間的余裕がありません。そこで、リスニングにこだわらず、調査全体をコントロールしながらアスキング中心にインサイトを引き出す調査として設計する方が効果的ではないかと思われます。


<アウトプットイメージ>
中長期MROCが、調査終了段階ではレポート内容がクライアント合意の上でほぼ確定しているのに対して、短期MROCでは調査終了後にレポーティング工程が一からスタートするイメージです。

中長期MROC
モデレータとクライアントが随時やり取りしながら、プラットフォーム上の投稿からインサイトを発見・収集していくようなイメージになります。最終レポートはモデレータとクライアントのやり取りの過程を分かりやすくまとめ上げたものになります。(長期MROCでは調査期間中に数回の中間報告が発生するため、たいていの場合はモデレータ-クライアント間で結果の共有がなされています。)

短期MROC
オンライン定性調査のように、最終的に得られた情報すべてを調査終了後に細かく精査してインサイトを発見・確定していく過程がレポーティング工程の主な作業になります。




次回は、MROCで使用する実際のプラットフォームの内容やしくみについて紹介する予定です。