はじめに

まず、現状の顧客満足度調査の課題を述べる前に、顧客満足という概念がどのようにして生まれ、それらに対応する対顧客マーケティングがどのように発展してきたかという1970年以降の歴史について述べてみます。これらを一度振り返ってみることで、今日の顧客満足が抱えた本質的な問題をより深く理解できるようになると思います。




顧客満足概念と対顧客マーケティングの発展の歴史

1970年代 - 製品志向マーケティング(マスマーケティング)-
製品さえつくればモノが売れるという時代で、企業のマーケティング活動も大量生産・大量消費を前提としていました。


1980年代 - 顧客志向マーケティング -
製品志向マーケティングの行き詰まりから米国で顧客志向マーケティングが成立し、1980年代に広まりました(プロダクトアウトからマーケットインへ)。その背景には、1975年頃、 ジョン・グッドマン(TARP社)が苦情を適切に処理する重要性を証明し、顧客満足度調査が創始されました。グッドマンの理論は、わが国にも紹介され、顧客満足という考え方が日本で広がっていきました。

このグッドマン理論の要点は以下です。

(1) 顧客がクレームを申し立てても、その後の対応に満足した場合は、
   不満を抱えながらクレームを申し立てない顧客よりも再購入決定率は高い。

(2) クレーム処理に不満を抱いた顧客の口コミは、満足した顧客の口コミより2倍も強い影響力を持つ。

(3) 苦情相談窓口を開設することは、消費者の信頼向上や購入意向を高めることにつながる。

⇒ 苦情を積極的に伝えてもらい、それに真摯に対応することが再購入率を高める



1990年代 - 顧客ロイヤルティ概念の登場 -

⇒ データベースで顧客の特徴を把握するCRM(顧客関係管理)が発展

1980年代になって、前々回のレポートでも紹介した、既存顧客の維持は新規顧客獲得より重要であるとする顧客ロイヤルティの考え方が登場してきました。さらに、顧客ロイヤルティの向上のために、CRM(Customer Relationship Management/顧客関係管理)およびCLV(Customer Lifetime Value/顧客生涯価値)といわれる考え方が生まれ、企業社会に普及していきました。

ところで、このCRMは、リレーションシップマーケティング(one to one)とも呼ばれ、顧客のさまざまな情報(属性、購買行動、保守履歴、問合せ・クレーム内容など)を逐一データベース化することで顧客のニーズに細かく対応し、継続的に顧客であり続けてもらう手法のことを言います。これらは顧客の会員化・メンバーズカード発行といった囲い込みビジネスとして発展し、現在のネットショッピングの基盤にもなっています。

また、顧客へのサービスを強化していくためには、自社の従業員のモチベーション向上も必要となるため、顧客ロイヤルティは、従業員、株主、その他のステークホルダーのロイヤルティも含めた、事業の長期的継続のための理論としても発展していきました。



2000年代~ - CEM(顧客経験管理)の登場 -

⇒ 経験価値の提供という新たなパラダイムへ

2000年以降、顧客を単なる「購買者」ではなく、「最終的な利用者」としてとらえ、利用を通じての感動・感激といった「望ましい経験」を重視するというCEM(Customer Experience Management/顧客経験管理)という概念がハーバード大学のバーンド・H・シュミットにより提唱され、広まってきました。

この考え方は、インターネット上でユーザーの声を集めて製品開発や製品改良に活かす顧客参加型の共創(co-creation)や食品会社のウェブサイト上のメニュー投稿など、消費者に新たな経験を提供することで、顧客ロイヤルティ向上に寄与する取り組みとしても発展しています。




顧客満足度調査が抱える本質的な課題

【問題点1】
CRM、CEMを目的とした顧客満足度調査は、プロモーション(販促活動)ではないか?

近年の顧客満足度調査はCRM,CEMを前提としているため、顧客の個人情報(個人名・生年月日・住所、メールアドレスなど)をアンケート内に記載してもらい、企業内で保管している顧客データベースと結びつける場合が増えてきました。企業では、消費者が記入したこうした属性情報を活用して顧客の関心があると思われる商品案内のメールを送付するなど、その目的はマーケティング・リサーチではなく、プロモーション(販促活動)として利用されることが多くなっています。

しかし、本来、調査会社は企業から依頼された調査において企業からの名簿提供を受けた場合、以下のような調査を「マーケット・リサーチ」として行うべきではないとされています。

・企業が不満を抱える特定の個人やその不満の内容を抽出して欲しいと調査会社に依頼してフォローを行う場合。
・後日、企業が特定の個人に対して、回答内容に応じてプロモーションを実施する場合。

ところが、近年の顧客満足度調査は、旧来の統計的処理を行うことを目的とした調査の範疇を逸脱するケースも見受けられ、各国のデータ保護法(わが国の個人情報保護法)との整合性においてさまざまな問題を生じさせつつあります。


【問題点2】
顧客満足度は、顧客の再購買につながる真の指標になっているのか?

通常、顧客満足度調査は以下のような質問を対象者に対して行います。

(例)あなたは○○について満足していますか。
あなたのお気持にもっともよくあてはまるものをお選びください。
1.満足している
2.やや満足している
3.どちらでもない
4.やや不満である
5.不満である


こうした調査の場合、「これまでに顧客の経験した満足度の平均値」を測定していたといえると思います。しかし、近年、顧客が一度購入した商品を再購入する際には「満足度の平均値(=平均的な過去の記憶)」だけでなく、「具体的にはっきりと記憶に残っている最高/最低の経験」に左右される傾向のあることが分かってきました。

注目されているのが顧客満足(Customer Satisfaction/CS)ではなく顧客感動(Customer Delight/CD)という考え方

そこで、注目されているのが顧客満足(Customer Satisfaction/CS)ではなく顧客感動(Customer Delight/CD)という考え方です。これまでの顧客満足度調査とは、一般に評価の低い部分を発見して改善していく手法ですが、顧客感動調査は、商品(サービス)を利用して受けた際に顧客の記憶に強く残っている感動経験を引き出し、顧客が「期待している感動」を生み出すメカニズムを構築する手法で、顧客が意図しない高い評価を意図的に作り出したり、低い評価を消したりすることも行われます。 ただ、現状は、「どんな設問で最高/最低の経験を引き出すか」など、スタンダードと言える手法が確立しておらず、さまざまな検証が行われている段階です。

<顧客感動調査の質問表の例>
顧客感動調査の例:あなたが○○を利用してこれまでに感じた感情を選択してください。
また、その中で「もっとも素晴らしい最高最低の気分になった」と感じたときの感情について、カッコ内に「どうして素晴らしい最高最低の気分になったのか」そのときの状況を具体的に書いてください。
 1.感動(具体例    ) 2.感激(具体例    ) 3.安心(具体例    )
 4.感心(具体例    ) 5.不安(具体例    ) 6.恐怖(具体例    )



【問題点3】
BtoBの顧客満足度調査は、BtoCとは異なるアプローチが必要ではないか?


消費者に販売する最終製品を製造する前段階の「原材料・部品」「道具・機械」「保守サービス」の取引など、法人相手のBtoBビジネスの場合は、以下のように関与する社内のセクションが多岐にわたるため、消費者向けと同じ顧客満足度調査だけでは精度の高い結果が得られないのが実情です。そこで、購買過程を事前ヒアリングして調査対象者を複数セクションに設定し、それぞれ別内容の調査票を作成するといった、きめ細かい調査設計が必要になってきます。

関与する社内のセクション


まとめ(顧客満足度調査の今後の展望)

上記のように、顧客満足の概念は社会の変容と発展を受けて、時代とともに変容しています。今後、特に注目すべきは、「2000年代~ -CEM(顧客経験管理)の登場-」の項でも述べた通り、インターネット上でユーザーの声を集め、企業の製品開発や製品改良に活かす顧客参加型の意見収集です。 これは、オンラインリサーチコミュニティ/MROC (Market/Marketing Research Online Community)と呼ばれ、企業は顧客の生の声を聞くことができる、低予算で迅速に結果を求めることができる、顧客がブランドや製品、サービスに関するディスカッションに参加することができるといったメリットがあり、顧客満足度調査のみならず、企業のマーケティング課題を解決する方法として生み出されました。




次回のレポートからは、新シリーズとして、この「オンラインリサーチコミュニティ」に焦点を当てたいと思います。