表象化とは?

前回記事の最後で簡単に説明しましたが、表象(※1)とはあるものを表すシンボル、表記、記号のことです。

具体的には
・人間が物体を認知する過程で心の中に形成するイメージ
・記憶したイメージが心の中に再現されたもの

を示します。


例えば、コカ・コーラと聞くと、これまでの経験から「スカッと爽やか」「のどの渇きを潤す」といったイメージが心の中に形成されたり、記憶したイメージが再現されたりします。これこそがまさに表象です。しかし、同じコカ・コーラという言葉を聞いても、思い浮かぶ表象は個々人で大きく異なります。視覚的表象がどのような形式で脳内に残り、長期記憶として蓄えられるかについては認知心理学でも確立した理論は存在せず、複数のモデル間で広範囲な議論(※2)が行われている段階です。

ただし、人間がある物体を表象に転化する際には、表象化というプロセスを経る必要があります。この表象化の考え方は、テレビCMや雑誌広告などさまざまな媒体でロゴマークを露出させて、企業名やブランドイメージを消費者に定着させていくマーケティング活動にも利用されています。

(※1)表象には、外界(身体の外部)にあり知覚可能な「アナログ表象」と抽象的概念を解釈することによって成立した「命題表象」の大きく分けて2つが存在する。「りんご」「10円玉」の表象は前者であり、「平和」「幸せ」の表象は後者。本記事ではScanadesignにおける物体の表象化プロセスに関する説明をするため、前者の「アナログ表象」がターゲットとなる。

(※2)アナログ表象が「画像イメージとして貯蔵される」のか「論理的命題として貯蔵される」のかについては、1970年代以降、イメージ論争と呼ばれる議論が繰り広げられている。

図1 アナログ表象の表象化と再生

図1 アナログ表象の表象化と再生




人間の視覚情報表象化プロセス

2-1.2段階の処理システム
それでは人間が物体の視覚情報を得た後、どのような流れで表象化が行われるのでしょうか。視覚情報が表象化(心的表象に転化)されるには2つの段階(※3)をたどると言われています。第1段階は特徴探索(feature search)と呼ばれるフェーズで、視界に映った物体の大きさ、色、方位といった単純な形態的特徴を比較的広い視野で極めて短時間に並列処理(=特徴を検出)します。

続いて第2段階である結合探索(conjunction search)では、第1段階で認識された特徴を結合(=複数の特徴を結合する)させるフェーズで、複数の形態的特徴を組み合わせて処理していくため、一定の時間が必要とされます。つまり、人間の視覚は、単純な形態的特徴については瞬間的に処理可能ですが、複数の特徴を結合して処理するには時間を要します。

これらのことは、以下の図2を見ると理解することができます。左の図のように「X」の中に1つだけある「○」、同様に「黒いX」の中にある「赤いX」を見分けることは、1種類の形態的特徴を把握するだけなので瞬間的に可能です。しかし、右の図のように色と形の2種類の特徴を組み合わせたものから1つだけ異なるものを見分けるには、さらに時間をかけて逐次処理を行わざるを得ません(右の図からオレンジ色の■をすぐに見つけられますか?)。要するに、人間は複数の形態的特徴を結合して、瞬間的に処理する視覚情報処理システムを有していないのです。

図2 視覚処理における形態的特徴把握の事例

図2 視覚処理における形態的特徴把握の事例

※上図はWikipediaの以下のページより引用。[http://ja.wikipedia.org/wiki/視覚探索]

(※3)Treisman & Geladeによって1980年代に提唱された特徴統合理論の一部。同理論は人間の視覚的注意に関する心理学的モデルであり、脳の視覚情報処理について一般的に認められているモデルの一つである。


この視覚情報システムが人間に備わったのは、動物の生存本能に起因すると考えられます。動物はエサとなる小動物を捕食する時や外敵から逃れるとき、視界に入る全情報を逐次処理していたのではその後の行動が遅れ、致命的なことになる可能性があります(図3)。

図3 迅速な視覚処理の必要性

図3 迅速な視覚処理の必要性


そこで、人間も含めた動物(※4)には、特徴的な情報については瞬間的に処理する能力が備わっているのです。

(※4)動物それぞれの生存環境によって、「視力は悪いが視覚で温度が感知できる」「紫外線が視覚で感知できる」といった能力を有し、聴覚や嗅覚とも補い合って生存に適した情報処理を行っており、本能力はその一つと考えられる。

この視覚処理システムをデザイン評価に応用したのがScanadesignです。


前回の記事で取り扱った「バッグのデザインのイメージ構造調査」に当てはめると、以下のようになります(図4)。

まず、画像が視界に入った瞬間に行うのが色、大きさ、形などの特徴探索で、調査対象者は、「白っぽい」「小さめ」「丸っこい四角」などの形態的特徴を瞬間的に認識します。次に、結合探索の段階では、やや時間をかけてこれらの特徴を結合し、過去の経験、記憶と照合しながら表象化を行い、「かわいらしい」「ガーリー」などのイメージを心の中に形成していくのです。つまり、複数の特徴を統合し、過去の経験、記憶を照合する「結合探索」の段階を経なければ、表象化はできないと言えるでしょう。

図4 バッグを対象とした表象化の例

図4 バッグを対象とした表象化の例


こうしたデザイン評価においては、調査対象者が、リサーチャーのバイアスを受けずに評価ができることは非常に重要です。その点、Scanadesignは調査対象者に表象化を通じて挙げてもらった評価項目を使うため、調査対象者のありのままの考えを浮き彫りにすることができます。そうした結果が商品をデザインする企業側の想定外のものになった場合は、それらを新たな視点として活かしたり、改善するための機会にしたりすることができるのです。


2-2.Scanadesignにおける表象化の必要性
Scanamindは、人間の無意識を抽出するために、2秒以内の回答を推奨しています。2秒以上の時間をかけると、長期記憶からさまざまな過去の関連した記憶が想起されたり、考え過ぎによる勘違いが生じたりするなど、無意識による情動的判断に対して理性によるバイアスがかかってしまうことがあるからです。ただ、2秒以内の判断が可能になるのは、調査対象者が評価する言葉を自分で入力しているため、入力作業中に既に表象化が終了しているからだと言えるでしょう。

同様にScanadesignも人間の無意識を可視化することが目的であるので、2秒以内の回答が推奨されています。しかし、対象者はリサーチャーから提示される画像を初めて目にするため、表象化のプロセス(=心的イメージに転換する)が終了していません。そのため、2秒以内での回答は困難です(図5)。そこで、調査対象者に画像をよく見せ、他の画像と比較させることでそれとなく表象化をさせるプロセスを設けています。

図5 表象化が終了している場合としていない場合の比較

図5 表象化が終了している場合としていない場合の比較


もちろん、調査対象者自身が自ら選択した画像をアップロードして使用すれば、選択において表象化の問題は生じませんが、アップロードされる画像のクオリティがバラバラである危険がありますし、各対象者がまったく異なる画像をアップロードして個々に評価しても、集団としての概念が統合できないため集計不能になってしまいます。

やはり、リサーチャーが画像を準備し、調査対象者に評価を行ってもらう前に、画像を表象化させるプロセスをそれとなく設けるのが最適であると考えられます。




Scanadesignにおける表象化のプロセス

調査対象者に表象化を行わせるプロセスにおいて、Scanadesignはランダムで選択された画像から好きな画像を複数回選択させるオペレーションを行います。

図6 バッグのデザインのイメージ構造調査における表象化のプロセス

図6 バッグのデザインのイメージ構造調査における表象化のプロセス


「バッグのデザインのイメージ構造調査」では、選択の対象となるバッグの画像200枚について、以下のような2段階のオペレーションを行っています(図6)。

第1段階 :
ランダムで6枚ずつ6回(計36枚)表示される画像から、好きなものを6枚選択してもらう。

第2段階 :
第1段階で選択された6枚の画像を二者択一で組み合わせて、6枚の画像からさらに好きなものを3枚選択してもらう。


このように調査対象者に「好きな画像を選択させる」ことは、好きなものを選択しながら、対象となる物体の特徴(色・形・大きさ…)を比較してもらうことに他なりません。好きなものを選択しながらバッグ全体の形状だけでなく、「手提げ部分の長さ」「ポケットの有無」「レースやリボンといった装飾」などを無意識のうちに注意を向け比較するようになるのです。こうした作業を通じて、バッグに対するイメージを心の中に形成できる表象化を自然に完了できるようになることが、Scanadesignの最大の特徴だと言えるでしょう。



まとめ

今回のレポートをまとめると以下の3点になります。

・人間は生まれながらにして、視覚情報を表象化するという仕組みを備えている。

・視覚情報の表象化は「特徴探索」「結合探索」の2段階を経る。最初に特徴的な情報が瞬間的に処理され、その後時間をかけてそれらの情報を結合して完了する。この「結合探索」の過程では、過去の知識や経験と照合しながら調査対象物に対するイメージを心の中に形成していく。

・Scanadesignは、調査対象者に概念の関係性を判断してもらうため、複数回にわたって画像の比較をする表象化のプロセスを本調査の前に設定している。ここでは、対象となる物体の形態的特徴に調査対象者の目を向けさせ、自然に表象化ができる仕組みが組み込まれている。




次回は、Scanadesignで調査対象者の概念構造を可視化したアウトプットである、概念構造マップの解説を行う予定です。



※「Scanamind」に関わる技術は株式会社クリエイティブ・ブレインズが特許法に基づく特許権を取得しています(特許第3335602号,特許3278415号,特許3417941号,特許3638943号,特許4824837号)。
米国・ドイツ・フランス・英国でも同社の特許権が成立しています。
※「Scanamind」は株式会社クリエイティブ・ブレインズの登録商標です(登録番号第5109952号)。また世界主要35カ国における同社の登録商標です(国際登録第1131308号)。
※「Scanamind」公式サイト
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